米国トヨタの未来を危惧する
10月4日の日経新聞には、米国の景気の悪化と日系企業の対応を象徴する記事が出ている。
( その米国で、トヨタは金利なしで新車をローン販売する「ゼロ金利」キャンペーンを始めた。)
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20081004AT1D030D603102008.html
(主力の「カムリ」や「カローラ」を含む11車種が対象。トヨタの渡辺捷昭社長は同日、国内の講演で2008年の米新車市場が1400万台を割り込むとの見通しを明らかにした。金融危機が実体経済に波及し、世界最大市場の米国で新車販売は大きく落ち込んでいる。トヨタは事実上の大幅値引きで販売をテコ入れする。)
トヨタが大掛かりなゼロ金利販売を実施するのは、米同時テロで需要が急減した01年以来初めてとみられ、実施期間は11月3日までであるという。報道にもあるように、ビッグスリーは売上が低迷すると必ずといっていいほど、この種のゼロ金利販売を繰り返し実施している。まるで、元気がなくなったときの栄養ドリンクのように、それこそ気楽にごくりと飲み干し、「さーこれから仕事だ!」と元気良く出かけていくCMの姿を想像すればいいかもしれない。日経の記事では、「ゼロ金利で販売増を狙うが、採算の悪化は避けられない。ゼロ金利をやめた段階で反動減が発生する懸念がある。」とある。
サブプライムローン問題から危機的状況に拡大している米国の金融危機は、実体経済に多大なる影響を及ぼし、今まさに自動車の販売の大幅な減少をもたらした。9月の新車販売台数は、15年ぶりに単月ベースで100万台を割りこんでおり、これまで低燃費車人気で持ちこたえてきた日本勢も打撃を受けている。トヨタですら、前年同月比32%も減少している。このような状況で何ができるかの思案の末の結論であったのであろう。ゼロ金利による販売促進、インセンティブプログラムの発表である。
これを遡る7月には、一部生産ラインを3ヶ月休止すること、それに小型車やハイブリッドなどの比較的好調な車種への生産の組み換えなどの米国生産体制の再講築策を発表している。これには、利幅が大きい大型ピックアップトラックに生産をシフトした計画からの転換を意味する。生産休止自体も、米国経済の変調は、既に去年から伝えられており、今年の7月の時点で減産とは些か時期を逸している感が否めない。従業員をレイオフすることはなさそうだが、在庫が大きく積みあがっていることであろう。そして、その在庫量に恐怖を感じ、今回の値引きとも取れる、ゼロ金利販売を実行するのであろうか。
しかし何故、世界最大の自動車市場でトヨタという超一流企業が,大きく躓いているのであろうか?限られたマスコミ報道ですべてを批評しつくすことはできないが、幾らかの手がかりと我輩の経験で大胆に論評してみよう。
事の発端は、2006年5月に北米トヨタ自動車に対し、元社長秘書が、上司である同社の社長からセクハラを受けたとして、トヨタ自動車と同社の社長を提訴したから始まったのではないだろうか?セクハラは日本文化かと現地のマスコミで騒がれはしたものの、その後問題は大きく報道されず、双方和解で解決したようである。さすがトヨタだと、マスコミ管理の面からも、感心したことを思い出す。そのために、ほとんどのマスコミに手をうったのであろう。いまや大衆の記憶の底にないといっていい。ただ、マンハッタンの敏腕弁護士に唆されて、元秘書が訴えたにしても、訴えられそうなことをしたという事実は、経営者として失格といってもいいであろう。
元いた会社でも、米国の社長がセクハラで訴えられたことがある。どことなく隙もある女にもてそうもないが、女好きの愛嬌たっぷりの男であった。優秀なセールスマンでもあったので、本社の最高責任者はどうにかして辞めさせずに置いておきたい、併せて会社の責任ではなく、本人の責任であるはずだと海外を見ていた我輩に詰め寄った。「いや、そんな環境を作り出した会社も罪になるんですよ。5時過ぎでの会社の外での出来事といえども、会社に責任はあるんですよ。」と、3時間ばかり、話すだけでも従業員に恐れられているその最高責任者と向き合った。あれは、米国三菱自動車のセクハラの問題が報道される約一年前の出来事だった。たしか、わずか27万ドルで和解したはずである。しかしながら、三菱の問題が報道され、多額の賠償金を取られたときも、我輩には何もいわずに、他の関係者に、「随分安くすんでよかった。」と述べたことを聞いた。誰も、自分はすべをコントロールしている、間違いは起こさないと思いたがるのだろう。元の会社の被告はイタリア系アメリカ人であったが、その後責任者は日本人になった。元々慎重な人間であったので、色々弁護士に相談しながら、問題点を整理した。その結果、極めて健全な会社として成長を続けている。喜ばしいことである。勉強が生きているのだ。
それはさておき、北米トヨタ自動車のセクハラ問題をたぶんに想像すると、セクハラ訴訟を日本人社長に対して起こされたことで、社内に日本人の経営管理能力に疑問を呈する土壌が醸成されてしまったのではないかと思われる。できの悪い日本人現地社長のお陰で、トヨタのイメージは地に落ち、そこから回復するにはトヨタといえども想像を絶することであった。その原因を作ったのが日本人である。この事実は消すことができない。ここから、北米トヨタの躓きが始まっていやしないかと感じる。
大型車が売れないなら、生産調整をすればいい。それも早めに、一気呵成にする必要がある。事実はいかにも遅かった。その結果、倉庫には在庫の山。その解決策が、ゼロ金利キャンペーンである。いかにも陳腐な政策である。ビッグスリーが繰り返した政策である。その結果、販売金融で低金利のローンを提供すれば、売りを大きく伸ばせるのだという思い込みが、ビッグスリーの首脳部に刷り込まれた。もし、自動車自体に優劣がなければ、その通りかもしれない。しかし、メーカーは良い車を、安く売るのが、基本である。便利なローンで売りを伸ばすことができるもしれない。ただ、それは経済が右肩上がりのときか、近々右肩上がりになる直前のときの話だ。今のサブプライムから派生したアメリカの金融危機は、回復までに後数年掛かるに違いない。そんな時は、まず、現行の売上に見合った体力にすることだ。縮小均衡が最善の方法である。いかにもみっともない、苦しい、悲しいことであるが、まず身を細めよといいたい。
もし、今がゼロ金利で客を集めたらどうなるか。日経が言うところの需要の先取りか、お金がない客のみを拾ってくることで終わってしまうだろう。その結果、そこから発生した売掛金が滞留し、不良債権に転ずるのは目に見えている。その処理に何年も費やし、その間、前向きな業務はできなくなってしまうのだ。我輩はアメリカに出向していた時代、元の会社で販売金融制度を構築した。お金がなくて買えないお客さんに自社のローンやリースを提供して、売上を飛躍的に上昇させた。しかし、不況に突入した80年代後半に、その比率を高め、併せて低金利と特殊なローンを考案し、どうにか売上を維持させもした。その結末は、多額の不良債権発生であり、多数の機械の返品である。健全化に何年も費やした。挙句の果てに、多くの有能な人材を失った。有能な人材ほど、容易に外に出てしまう。
我輩がアメリカにいた期間、トヨタはいたずらに販売金融に頼らず、着実に業績を伸ばした。トヨタの得意なモノづくりに愚直に取り組み、それを製品に反映させて成長を遂げてきた。日産がビッグスリーの物まねで、販売金融に頼ったときも、わが道を行っていたはずである。そのDNAはどこに行ったのだろうか?もし、嘗てのセクハラの後遺症で、日本人幹部がものをいえない状況ができているとしたら、もはやトヨタに未来はない。正しいDNAをそのまま実行してこそ、トヨタの行く末がある。
9月30日の朝日新聞の夕刊に、「トヨタ式林業」とのタイトルで、その試みを以下のように賞賛している。。
(三重県大台町で、トヨタが昨年9月に1630ヘクタールの山林を購入した。「50年かけてまじめに林業をやるんです。」と、トヨタ式の合理化ノウハウを駆使し、トヨタ式林業を構築する気構えである。トヨタが自動車以外の産業で大成功した例は聞かないが、林業に合理化精神を持ち込んで再構築しようという挑戦は、それだけでも価値がある。)
我輩も、大いに期待している。アメリカで簡単に挫折してもらいたくないのだ。


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